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不安障害の身体症状―動悸や息苦しさの正体を知る

坂田亮介
2025年10月11日

動悸、息苦しさ、めまい...不安障害が引き起こす身体症状は多彩です。なぜ心の問題が体に現れるのか、そのメカニズムと対処法を解説します。

はじめに

「動悸がして、胸が苦しい」「息ができなくなる感覚がある」――こうした身体症状で内科を受診したものの、検査では異常が見つからない。そんな経験はありませんか?実は、不安障害は心の問題でありながら、様々な身体症状として現れることがあります。

不安障害による身体症状は決して「気のせい」ではありません。自律神経系の実際の変化により、動悸、息苦しさ、めまいなど多彩な症状が現れます。本記事では、なぜ心の問題が体に現れるのか、そのメカニズムと効果的な対処法について、患者さんにとって分かりやすく解説いたします。

不安障害とは

不安障害は、日常生活に支障をきたすほど強い不安や恐怖を感じる状態です。適度な不安は危険から身を守る正常な反応ですが、過剰になると心身に様々な影響を及ぼします。

不安障害には複数のタイプがあり、それぞれ特徴的な症状や経過を示します。どのタイプの不安障害も、適切な治療により改善が期待できる疾患です。

主な不安障害の種類

障害のタイプ 主な特徴 持続期間 生活への影響
全般性不安障害 日常の様々なことに過度に心配し、その心配をコントロールできない状態 6か月以上持続 仕事や人間関係に支障
パニック障害 突然の強い不安発作と、その発作への恐怖 発作は10-20分程度 行動が制限され、外出困難になることも
社交不安障害 人前での強い不安や恐怖、社交場面の回避 6か月以上持続 社会生活、職業生活に大きな支障
特定の恐怖症 特定の対象や状況への過度で非合理的な恐怖 持続的 日常生活の制限、回避行動

なぜ不安が身体症状を引き起こすのか

不安と身体症状の関係を理解するには、私たちの体に備わっている自律神経系の働きを知ることが重要です。自律神経系は、心臓の拍動や呼吸、消化など、私たちが意識しなくても自動的に働いている身体機能をコントロールしています。

自律神経系の2つのシステム

自律神経系には、相反する働きをする2つのシステムがあります。交感神経は「アクセル」のように体を活性化し、副交感神経は「ブレーキ」のように体をリラックスさせます。

交感神経は「闘争・逃走反応」を担当し、危険に対処するため体を緊張状態にします。心拍数を増加させ、呼吸を促進し、血圧を上昇させて、アドレナリンやノルアドレナリンというホルモンを分泌します。

副交感神経はリラックス・回復を担当し、体を休息モードにします。心拍数を低下させ、消化を促進し、平常時に優位に働いています。

不安時の身体変化のメカニズム

不安を感じると、脳の扁桃体という部分が「危険信号」を発し、交感神経が優位になります。これは本来、ライオンに遭遇したような実際の危険から身を守るための生存反応です。

しかし、不安障害では実際の危険がない状況でもこの反応が起こってしまうため、様々な身体症状が現れます。現代社会では「ライオン」の代わりに、仕事のプレッシャーや人間関係のストレス、将来への不安などが引き金となって、同じ身体反応が起こってしまうのです。

不安障害の主な身体症状

不安障害による身体症状は多岐にわたり、症状の現れ方も人それぞれです。同じ不安障害でも、ある方は主に動悸を感じ、別の方はめまいや胃腸症状が中心となることがあります。

重要なのは、これらの症状はすべて自律神経系の正常な反応であり、適切な対処法を身につけることで改善が期待できるということです。

症状の分類 具体的な症状 発生のメカニズム 効果的な対処法
循環器系 動悸、頻脈、胸の圧迫感、脈の乱れ 交感神経活性化により心拍数増加、血流量増加 深呼吸、冷たい水を飲む、安心できる言葉かけ
呼吸器系 息苦しさ、過呼吸、胸の詰まり感 呼吸が速くなり血中CO2減少、さらに息苦しさ増幅 4秒吸って6秒吐くリズム、意識的にゆっくり呼吸
消化器系 吐き気、胃痛、下痢、便秘、食欲不振 交感神経優位で消化機能抑制、ストレスホルモンで胃酸増加 消化の良い食事、規則正しい食事時間、カフェイン制限
神経系 めまい、ふらつき、頭痛、集中困難 過呼吸による血中CO2減少、血圧変動、筋肉緊張 ゆっくり座る、深呼吸、首肩ストレッチ
筋骨格系 肩こり、首こり、背中の痛み、手足のしびれ 交感神経活性化で筋肉が持続的に緊張状態 ストレッチ、ヨガ、温浴、適度な運動
その他 発汗、手足の冷え、頻尿、疲労感 自律神経の乱れによる様々な身体機能の変調 リラクゼーション、規則正しい生活、十分な休息

身体症状と心の症状の悪循環

不安障害の特徴的な問題の一つに、身体症状と心の症状が互いに影響し合って悪循環を形成することがあります。

最初は軽い不安や恐怖から始まりますが、それに伴って動悸や息苦しさなどの身体症状が現れます。すると「もしかして重大な病気では?」「心臓に異常があるのでは?」という新たな心配が生まれ、さらに不安が増幅されます。その結果、身体症状もより強くなり、症状全体が悪化していくという悪循環に陥ってしまいます。

この悪循環を断ち切ることが、不安障害治療の重要なポイントです。症状のメカニズムを理解し、適切な対処法を身につけることで、この悪循環から抜け出すことができます。

医療機関での診断プロセス

不安障害の診断では、まず身体的な病気がないことを確認し、その上で精神科・心療内科での専門的な評価を行います。このような段階的なアプローチにより、確実で安心できる診断を受けることができます。

内科的検査の重要性

まずは内科で身体疾患を除外することが重要です。動悸や息苦しさの症状は、甲状腺機能亢進症や不整脈、貧血など、様々な身体疾患でも起こり得るためです。

血液検査で甲状腺機能や貧血の有無を調べ、心電図や心エコー検査で心臓の状態を確認します。胸部X線検査で肺の状態をチェックし、必要に応じてCTやMRIなどの詳しい検査を行うこともあります。これらの検査で異常が見つからない場合、身体的な病気の可能性は低くなります。

精神科・心療内科での専門診断

身体的な異常が見つからない場合、精神科・心療内科での評価が有効です。専門医は詳細な問診を通して、症状の経過やきっかけ、生活状況を丁寧に聞き取ります。

不安障害の診断基準に基づいた評価を行い、他の精神疾患との鑑別も慎重に行います。必要に応じて心理検査を実施し、より詳しい心理状態の評価を行うこともあります。このような包括的な評価により、最適な治療方針を決定することができます。

治療方法

不安障害の治療は、症状の程度や個人の状況に応じて、複数のアプローチを組み合わせて行います。薬物療法、心理療法、生活習慣の改善、セルフケア技法を適切に組み合わせることで、多くの方が症状の改善を実感されています。

治療分野 治療法 効果と特徴 効果発現時期 適用場面
薬物療法 SSRI/SNRI(抗うつ薬) 脳内セロトニン・ノルアドレナリンバランス調整で根本的改善 効果発現まで2-4週間 長期治療に適している
薬物療法 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系) 即効性があり急な不安発作に効果的 服用後30分-1時間で効果 短期間使用が原則、依存性注意
薬物療法 β遮断薬 動悸や手の震えなど身体症状を直接軽減 服用後1-2時間で効果 必要時のみ使用、特定場面で有効
心理療法 認知行動療法(CBT) 過度な解釈の修正、現実的思考の習得 3-6か月で改善実感 根本的改善、再発予防に効果的
心理療法 曝露療法 恐れている状況に段階的に慣れる訓練 数か月の継続が必要 回避行動の改善に特に有効
セルフケア リラクゼーション技法 呼吸法、筋弛緩法、マインドフルネス 即効性あり、継続で効果増 日常的な予防と対処に最適

効果的なセルフケア技法

日常生活で実践できるセルフケア技法は、症状の予防と改善に大変効果的です。特に呼吸法とグラウンディング技法は、即効性があり多くの方に役立ちます。

4-6呼吸法の実践方法

ステップ 動作 ポイント
1 鼻からゆっくりと4秒間息を吸う お腹が膨らむのを意識
2 息を1-2秒止める 無理はしない
3 口から6秒かけてゆっくり息を吐く 口をすぼめて細く長く
4 これを5-10回繰り返す リラックスできるまで継続

5-4-3-2-1グラウンディング技法

感覚
視覚 5 目に見えるもの(時計、本、窓など)
聴覚 4 聞こえる音(車の音、鳥の声、エアコンなど)
触覚 3 触れるもの(椅子の感触、衣服、テーブルなど)
嗅覚 2 匂い(コーヒー、空気の香りなど)
味覚 1 味(口の中の味、飲み物の味など)

生活習慣改善のポイント

規則正しい生活リズムを保つことは、自律神経のバランスを整える上で非常に重要です。一定の睡眠時間を確保し、朝の日光浴を心がけ、バランスの取れた食事を規則正しく摂ることで、症状の改善が期待できます。

週3回、30分程度の有酸素運動やヨガ、ストレッチなどの運動習慣も、自律神経のバランス改善に効果的です。カフェインは不安を増強する可能性があり、アルコールは一時的な緩和の後に症状が悪化することもあるため、適切な制限が必要です。

日常生活での工夫

不安障害による身体症状は、日常生活での適切な工夫により大幅に軽減することができます。症状が現れたときの対処法と、症状を予防するためのケア方法を身につけることで、より安心して生活を送ることができます。

症状が出たときの対処法

症状が現れたときは、慌てずに段階的に対処することが重要です。まず安全な場所に移動し座ったり横になったりして、物理的に安全を確保します。次にゆっくりとした深呼吸を意識的に行い、自律神経を落ち着かせます。

「これは不安症状で、危険ではない」と自分に言い聞かせる自己対話も効果的です。好きな音楽を聴いたり、100から7を順番に引いていく計算をしたりして気をそらすことも有効です。冷たい水を飲むことで自律神経のリセット効果も期待できます。

予防的なケアの重要性

症状の予防には、日頃のストレス管理が欠かせません。完璧を求めすぎず、無理をしすぎないことを心がけましょう。十分な休息を取り、睡眠の質を高めることで、自律神経のバランスが整いやすくなります。

信頼できる家族や友人など、サポートシステムを持つことも大切です。一人で抱え込まず、困ったときには相談できる人がいることで、心理的な安定につながります。症状の日時や状況、強さなどを記録につけることで、症状のパターンを把握し、予防に役立てることもできます。

家族・周囲ができること

不安障害による身体症状で悩んでいる方にとって、家族や周囲の人々の理解とサポートは治療において極めて重要な役割を果たします。適切なサポートにより、患者さんの回復が促進されることが多く経験されています。

理解とサポートの基本

最も重要なことは、症状が本物であり決して気のせいではないということを理解することです。「気の持ちよう」「気にしすぎ」「もっと強くなりなさい」などの言葉は、患者さんを追い詰めてしまうため避けるべきです。

代わりに、患者さんの話をじっくりと聞く姿勢を持ち、症状の辛さを共感的に受け止めることが大切です。解決策を無理に提案するよりも、まずは話を聞いてあげることで、患者さんは安心感を得ることができます。

パニック発作時の適切な対応

パニック発作が起きたときは、周囲の人が慌てないことが最も重要です。落ち着いた態度で接し、「大丈夫、これは発作で危険ではない、すぐに治まります」と安心させる言葉をかけてあげてください。

一緒に深呼吸を行うことで、患者さんの呼吸を整える手助けができます。ただし、無理に励ましたり、「頑張って」などの言葉をかけたりするのは逆効果になることがあるため注意が必要です。

治療へのサポート

症状が続く場合は、専門医への受診を優しく勧めることが大切です。患者さんが一人で受診することに不安を感じる場合は、付き添いを申し出ることも有効です。定期的な通院が必要になった際も、継続的にサポートすることで治療効果が高まります。

よくある質問

患者さんやご家族から寄せられる代表的な質問にお答えします。これらの疑問を解決することで、より安心して治療に取り組むことができます。

まとめ

不安障害による身体症状は、決して「気のせい」ではなく、自律神経系の正常な反応が過剰に働いた結果として現れる実際の症状です。動悸、息苦しさ、めまい、胃腸症状など多彩な症状が現れますが、適切な理解と治療により改善が期待できます。

症状のメカニズムを理解し、悪循環を断ち切る方法を身につけることで、多くの方が症状の改善を実感されています。一人で悩まず、適切な医療機関でのサポートを受けることが、回復への第一歩となります。

当院では、不安障害の身体症状に悩む患者様に対して、丁寧な問診と個々の状況に応じた適切な治療を提供しています。「検査では異常がないのに症状が続く」「動悸や息苦しさで日常生活に支障がある」という方は、お気軽にご相談ください。心と体の両面からのアプローチにより、患者様の症状改善と生活の質向上をサポートいたします。

坂田亮介

著者

名東メンタルクリニック 院長
精神保健指定医・日本精神神経学会専門医

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