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不安症 治療

パニック発作が起きたら?その場でできる対処法

坂田亮介
2025年10月11日

突然の動悸、息苦しさ、強い恐怖...パニック発作は予告なくやってきます。その場でできる具体的な対処法と、長期的な予防策を精神科医が解説します。

はじめに

電車の中で、会議中で、あるいは何気ない日常の中で――突然、激しい動悸、息苦しさ、強い恐怖に襲われる。それがパニック発作です。「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を伴うパニック発作は、経験した人にしかわからない辛さがあります。本記事では、パニック発作が起きたときにその場でできる具体的な対処法をご紹介します。

パニック発作とは

パニック発作は、突然始まる強い恐怖や不安の発作で、通常10分以内にピークに達します。発作自体は通常20〜30分程度で治まりますが、その間の苦痛は非常に強いものです。

パニック発作の主な症状

以下のうち4つ以上の症状が突然現れ、10分以内にピークに達します:

身体症状:

  1. 動悸、心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身体の震え
  4. 息切れ、息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛、胸部の不快感
  7. 吐き気、腹部の不快感
  8. めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
  9. 寒気またはほてり
  10. しびれ感、うずき感

精神症状: 11. 現実感消失(現実でない感じ)、離人感(自分が自分でない感じ) 12. 気が狂うのではないかという恐怖 13. 死ぬのではないかという恐怖

パニック障害との違い

  • パニック発作: 一時的な発作そのもの
  • パニック障害: パニック発作を繰り返し、発作への恐怖や回避行動がある状態

パニック発作が起きたときの即効対処法

ステップ1: 安全確保(最初の30秒)

1. 安全な場所に移動

  • 座れる場所を見つける
  • 可能なら横になる
  • 人混みから離れる(プライバシーが保てる場所)

2. 周囲に助けを求める(必要に応じて)

  • 信頼できる人に声をかける
  • 「パニック発作です。少し休ませてください」と伝える
  • 救急車は通常不要(後述の例外を除く)

ステップ2: 呼吸法(最初の3分)

パニック発作時には過呼吸になりやすく、これが症状を悪化させます。ゆっくりとした呼吸を意識することが最も重要です。

4-6呼吸法(最も効果的):

1. 鼻からゆっくり4秒かけて吸う
   → お腹が膨らむのを意識(腹式呼吸)

2. 口からゆっくり6秒かけて吐く
   → お腹がへこむのを意識

3. これを5〜10回繰り返す

ポイント:

  • 吐く時間を吸う時間より長くする
  • 胸ではなくお腹で呼吸する
  • 「1, 2, 3, 4」と数えながら行う
  • 焦らず、自分のペースで

別法: ペーパーバッグ法

  • 紙袋で口と鼻を覆い、袋の中の空気を吸ったり吐いたりする
  • CO2濃度を高め、過呼吸を改善
  • 注意: 医師の指導のもとで行う、やりすぎない(1〜2分程度)

ステップ3: グラウンディング技法(3〜10分)

グラウンディングとは、「今ここ」に意識を向け、発作から注意をそらす技法です。

5-4-3-2-1法(最も推奨):

周囲を見渡して、以下を声に出すか心の中で言います:

  1. 目に見えるもの5つ

    • 例: 「青い椅子」「白い壁」「時計」「カバン」「窓」
  2. 聞こえる音4つ

    • 例: 「車の音」「人の話し声」「エアコンの音」「鳥の鳴き声」
  3. 触れているもの3つ

    • 例: 「椅子の感触」「床の硬さ」「服の柔らかさ」
  4. 匂いがするもの2つ

    • 例: 「コーヒーの香り」「石鹸の匂い」
  5. 味がするもの1つ

    • 例: 「口の中の味」「ガムやあめ」

別法: 氷・冷水を使う

  • 冷たい水で顔を洗う
  • 氷を手に握る
  • 冷たいペットボトルを持つ

→ 強い身体感覚が不安から意識をそらす

別法: 筋肉の緊張と弛緩

  1. 手を強く握りしめる(5秒)
  2. 一気に力を抜く(10秒)
  3. 足に力を入れる(5秒)
  4. 一気に力を抜く(10秒)

ステップ4: 自己対話(継続的に)

パニック発作中の恐怖を和らげる言葉を自分にかけます。

効果的なフレーズ:

  • 「これはパニック発作だ。危険ではない」
  • 「必ず治まる。今まで何度も乗り越えてきた」
  • 「10分もすればピークは過ぎる」
  • 「私は安全だ。大丈夫」
  • 「呼吸に集中しよう」
  • 「今、ここにいる。落ち着いている」

避けるべき思考:

  • 「死んでしまうかもしれない」
  • 「このまま気が狂うのではないか」
  • 「みんなに変に思われている」

→ これらの思考は症状を悪化させます

ステップ5: 待つ(10〜30分)

パニック発作は、ピークを過ぎれば必ず治まります。

待つ間の心構え:

  • 発作と戦わない
  • 波に乗るように受け流す
  • 「必ず過ぎ去る」と信じる
  • 症状の変化を観察する(客観的に)

持ち歩くと役立つアイテム

1. パニック発作対処カード

財布に入れておける小さなカードに以下を書いておく:

【パニック発作対処カード】

1. 座る・横になる
2. 4秒吸って、6秒吐く
3. 5-4-3-2-1法
4. 「これは発作。必ず治まる」
5. 緊急連絡先: ○○○-○○○○

(かかりつけ医の電話番号)

2. その他の便利アイテム

  • ペットボトルの水: 冷水で顔を洗う、飲む
  • ハンドタオル: 冷やして首に当てる
  • ガム・あめ: 味覚でグラウンディング
  • アロマオイル(小瓶): ラベンダー、ペパーミントなど
  • 頓服薬: 医師から処方されている場合
  • イヤホン・音楽: リラックスできる音楽
  • お守り的なもの: 安心できる小物

頓服薬の適切な使用

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

代表的な薬:

  • アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)
  • ロラゼパム(ワイパックス)
  • エチゾラム(デパス)

特徴:

  • 即効性(15〜30分で効果)
  • パニック発作の緩和に有効
  • 依存性があるため適切な使用が重要

適切な使用方法:

  • 医師の指示通りの用量
  • 毎日の定期服用は避ける(頓服として)
  • 発作の初期段階で服用が効果的
  • アルコールと併用しない
  • 服用後の運転は避ける

服用のタイミング

1. 予期不安が強いとき

  • 発作が起きそうな状況に入る前
  • 例: 電車に乗る30分前

2. 発作の前兆を感じたとき

  • 軽い動悸、不安感の増大
  • 完全な発作になる前

3. 発作の初期

  • 発作が始まったと感じたらすぐ

長期的な予防と治療

1. 認知行動療法(CBT)

曝露療法(エクスポージャー):

  • 恐れている状況に段階的に慣れる
  • 発作が起きても安全だと学習
  • 回避行動を減らす

認知再構成:

  • 「動悸=心臓病」という誤った解釈を修正
  • より現実的な考え方を学ぶ

不安階層表の作成:

10点: 満員電車で30分
9点: 普通電車で30分
8点: 電車で15分
7点: 電車で5分
6点: 駅のホームに立つ
5点: 駅の改札を通る
4点: 駅に近づく
3点: 駅の写真を見る
2点: 電車について考える
1点: 自宅でリラックス

低いレベルから順に挑戦していきます。

2. 薬物療法

SSRI/SNRI(抗うつ薬):

  • パニック障害の根本治療
  • 発作の頻度と強度を減らす
  • 予期不安を軽減
  • 効果発現まで2〜4週間
  • 長期服用で再発予防

代表的な薬:

  • パロキセチン(パキシル)
  • セルトラリン(ジェイゾロフト)
  • エスシタロプラム(レクサプロ)

3. 生活習慣の改善

運動:

  • 週3回、30分程度の有酸素運動
  • 不安を軽減する効果
  • 自信の向上

睡眠:

  • 規則正しい睡眠時間
  • 十分な睡眠(7〜8時間)
  • 睡眠不足は発作を誘発

カフェイン・アルコールの制限:

  • カフェインは不安を増強
  • アルコールは一時的な緩和後、悪化

ストレス管理:

  • リラクゼーション法の習得
  • マインドフルネス瞑想
  • 趣味の時間

4. サポートシステム

家族・友人への説明:

  • パニック障害について理解してもらう
  • 発作時の対応方法を伝える
  • 「励まし」より「共感」が有効

サポートグループ:

  • 同じ悩みを持つ人との交流
  • 情報交換
  • 孤独感の軽減

家族・周囲の人ができること

発作時の対応

DO(すべきこと):

  • 落ち着いた態度で接する
  • 「大丈夫、すぐに治まるよ」と安心させる
  • 一緒に深呼吸をする
  • 静かな場所に移動する手助け
  • 本人の希望を聞く

DON’T(避けるべきこと):

  • パニックになる、慌てる
  • 「頑張れ」「気にしすぎ」と言う
  • 無理に動かそうとする
  • 大勢で取り囲む
  • 否定的な言葉をかける

日常的なサポート

  • 治療を続けることを応援
  • 回避行動を強制しない(焦らせない)
  • 小さな進歩を認める
  • 一緒に対処法を練習する

救急受診が必要な場合

パニック発作は通常、救急受診の必要はありませんが、以下の場合は医療機関を受診してください:

すぐに救急車を呼ぶべき状況:

  • 胸痛が非常に強く、10分以上続く
  • 呼吸困難が重度
  • 意識障害がある
  • 顔面蒼白、冷や汗が著しい
  • 初めての発作で、心臓病などの可能性を除外したい

後日の受診でよい場合:

  • 通常のパニック発作のパターン
  • 30分以内に症状が改善
  • 意識ははっきりしている

よくある質問

Q1: パニック発作で死ぬことはありますか?

A: パニック発作そのもので死ぬことはありません。非常に恐ろしい体験ですが、身体的には危険ではないことが医学的に証明されています。

Q2: 発作が起きそうな場所を避けるのは良くないですか?

A: 短期的には回避も必要ですが、長期的には悪循環を生みます。認知行動療法で段階的に慣れていくことが推奨されます。

Q3: 薬に頼らず治せませんか?

A: 認知行動療法だけでも改善可能ですが、薬物療法と併用することで、より早く確実な効果が得られます。症状が改善すれば、徐々に減薬できます。

Q4: 一度治っても再発しますか?

A: 適切な治療と再発予防により、再発リスクを大幅に減らせます。ストレス管理や生活習慣の維持が重要です。

まとめ

パニック発作は非常に恐ろしい体験ですが、適切な対処法を知っていれば、症状を和らげることができます。

即効対処法のまとめ:

  1. 安全確保: 座る・横になる
  2. 呼吸法: 4秒吸って、6秒吐く
  3. グラウンディング: 5-4-3-2-1法
  4. 自己対話: 「これは発作。必ず治まる」
  5. 待つ: 波が過ぎるのを待つ

長期的な対策:

  • 認知行動療法で根本治療
  • 薬物療法で発作予防
  • 生活習慣の改善
  • サポートシステムの構築

パニック障害は適切な治療により、多くの方が日常生活を取り戻せます。発作への恐怖から生活が制限されている方は、一人で悩まず、専門医に相談してください。

当院では、パニック障害の診断から治療、再発予防まで、包括的なサポートを提供しています。発作時の対処法の指導、認知行動療法、適切な薬物療法を組み合わせ、患者様が安心して生活できるようお手伝いいたします。お気軽にご相談ください。

坂田亮介

著者

名東メンタルクリニック 院長
精神保健指定医・日本精神神経学会専門医

医学的監修済み (2025年10月11日)

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