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治療

初めての精神科・心療内科―受診の流れと準備すること

坂田亮介
2025年10月11日

精神科・心療内科を初めて受診するのは不安なものです。受診の流れ、持ち物、診察で聞かれること、費用など、知っておくと安心できる情報を詳しく解説します。

はじめに

「精神科や心療内科を受診したいけど、どうすればいいかわからない」「どんなことを聞かれるのか不安」――初めて精神科・心療内科を受診される方の多くが、このような不安を抱えています。本記事では、受診の流れ、準備すること、よくある疑問について、精神科医が詳しく解説します。

精神科と心療内科の違い

精神科

対象: 主に精神疾患

  • うつ病、双極性障害
  • 統合失調症
  • 不安障害、パニック障害
  • 強迫性障害
  • ADHD、自閉スペクトラム症
  • 認知症
  • 依存症

アプローチ: 精神症状に焦点を当てた治療

心療内科

対象: 心身症(ストレスが原因の身体症状)

  • 過敏性腸症候群
  • 心因性の胃潰瘍
  • 緊張性頭痛
  • 過換気症候群
  • 摂食障害

アプローチ: 心と体の両面からアプローチ

実際には

多くのクリニックでは、精神科と心療内科を両方標榜しており、うつ病や不安障害など幅広く診療しています。初診の方は、どちらを選んでも問題ありません。

当院も「精神科・心療内科」として、心の問題全般に対応しています。

受診を考えるタイミング

以下のような症状が2週間以上続いている場合は、受診をお勧めします:

気分の問題

  • 憂うつな気分が続く
  • 何をしても楽しめない
  • イライラが止まらない
  • 不安や心配が強い

睡眠の問題

  • 寝つけない
  • 夜中に何度も目が覚める
  • 朝早く目が覚めてしまう
  • 寝ても疲れが取れない

日常生活への影響

  • 仕事や学業に集中できない
  • 欠勤・欠席が増えている
  • 人と会うのが辛い
  • 家事ができない

身体症状

  • 原因不明の頭痛、胃痛
  • 動悸、息苦しさ
  • めまい、ふらつき
  • 食欲の変化、体重の増減

緊急性が高い場合

以下の症状がある場合は、できるだけ早く受診してください:

  • 死にたいと思う(希死念慮)
  • 自分を傷つけたい
  • 幻聴や妄想がある
  • 全く眠れない日が続く
  • 食事がまったく摂れない

受診前の準備

1. クリニックの選び方

確認するポイント:

アクセス:

  • 自宅や職場から通いやすい
  • 駐車場の有無
  • 公共交通機関でのアクセス

診療時間:

  • 仕事帰りに行ける時間帯
  • 土曜診療の有無
  • 予約制かどうか

医師の専門性:

  • 精神保健指定医
  • 専門医の資格
  • 得意分野

口コミ・評判:

  • インターネットの口コミ
  • 知人の紹介
  • ただし個人差があることを理解

初診の受付状況:

  • 新規患者を受け付けているか
  • 予約の待ち時間

2. 予約の取り方

電話予約:

  • 診療時間内に電話
  • 「初診を希望します」と伝える
  • 希望日時を伝える(複数候補があると良い)

伝えること:

  • 名前、生年月日
  • 連絡先(携帯電話番号)
  • 主な症状(簡単に)
  • 他院からの紹介状の有無

確認すること:

  • 予約日時
  • 持ち物
  • 初診料の目安
  • 所要時間

Web予約:

  • 当院ではWebからの予約も可能
  • 24時間受付
  • 確認メールが届く

3. 持ち物チェックリスト

必須:

  • ☑ 健康保険証
  • ☑ 診察券(再診の場合)
  • ☑ お薬手帳(服用中の薬がある場合)
  • ☑ 現金・クレジットカード

あると良いもの:

  • ☑ 紹介状(他院からの場合)
  • ☑ 血液検査結果など(直近のもの)
  • ☑ 症状メモ(後述)
  • ☑ 飲んでいる薬・サプリメント
  • ☑ 筆記用具(メモを取る用)
  • ☑ 身分証明書(自立支援医療申請の場合)

4. 症状メモの作成(重要!)

診察室では緊張して、言いたいことを忘れてしまうことがあります。事前にメモを作っておくと、スムーズに伝えられます。

症状メモのテンプレート:

【いつから】
□ 症状が始まった時期:
□ きっかけ(思い当たること):

【どんな症状】
□ 主な症状(3つまで):
  1.
  2.
  3.

【程度】
□ 日常生活への影響(仕事、家事、人間関係など):

【睡眠】
□ 寝つき: 良い / 普通 / 悪い
□ 途中で起きる: ない / 時々 / よくある
□ 起床時刻:
□ 朝の気分: 良い / 普通 / 悪い

【食欲】
□ 食欲: ある / 普通 / ない
□ 体重の変化: 増えた / 変わらない / 減った(  kg)

【生活状況】
□ 仕事・学校:
□ 家族構成:
□ ストレス(あれば):

【既往歴】
□ 過去の病気:
□ 現在飲んでいる薬:
□ アレルギー:

【家族歴】
□ 家族に精神疾患の方がいるか:

【希望】
□ 医師に相談したいこと:
□ 薬について(希望、心配など):
□ 診断書・紹介状の希望:

受診当日の流れ

1. 受付(5分)

到着時間:

  • 予約時間の10〜15分前に到着
  • 初診の場合は書類記入があるため、少し早めに

受付で行うこと:

  • 保険証の提示
  • 問診票の記入
  • 同意書へのサイン(個人情報取り扱いなど)

2. 問診票の記入(10〜15分)

記入項目:

  • 基本情報(名前、生年月日、住所、連絡先)
  • 主訴(一番困っている症状)
  • 現病歴(いつから、どんな症状)
  • 既往歴(過去の病気)
  • 家族歴
  • 生活状況(仕事、家族、飲酒・喫煙など)
  • アレルギー

書き方のコツ:

  • わからない項目は空欄でOK
  • 正直に書く(恥ずかしいことでも)
  • 詳しくは医師に直接話せる

3. 待合室で待機(10〜30分)

リラックスして待つ:

  • 雑誌や本を読む
  • スマートフォンを見る(マナーモードで)
  • 深呼吸してリラックス
  • 症状メモを見返す

4. 診察(初診30〜60分)

診察室に入ったら:

  • 「こんにちは」と挨拶
  • 席に座る(看護師が案内)
  • 緊張していることを伝えてもOK

医師が聞くこと:

1. 主訴(一番困っていること)

  • 「今日はどうされましたか?」
  • 一番困っている症状を伝える

2. 現病歴(症状の詳細)

  • いつから症状があるか
  • きっかけは何か
  • どんな症状か(具体的に)
  • 症状の経過(良くなったり悪くなったり)
  • 日常生活への影響

3. 既往歴

  • 過去にかかった病気
  • 過去の精神科受診歴
  • 現在の治療中の病気
  • 飲んでいる薬

4. 家族歴

  • 家族に精神疾患の方がいるか
  • 家族の病歴

5. 生活状況

  • 仕事・学校の状況
  • 家族構成、同居人
  • 生活リズム(睡眠、食事)
  • ストレス要因
  • 飲酒・喫煙

6. 社会歴

  • 学歴、職歴
  • 結婚歴
  • 重要なライフイベント

正直に話すことが大切:

  • 恥ずかしいことでも正直に
  • 医師には守秘義務があります
  • 正確な診断には正直な情報が必要

わからないことは質問:

  • 遠慮せずに質問してOK
  • 「もう一度説明してください」もOK
  • メモを取ってもOK

5. 診断・治療方針の説明(10分)

医師から説明があること:

診断:

  • 現時点での診断名
  • 病気の説明
  • 今後の見通し

治療方針:

  • 薬物療法の必要性
  • 処方する薬の説明(効果、副作用)
  • 精神療法(カウンセリング)の提案
  • 生活指導

次回の予定:

  • 次回受診日
  • 定期的な通院の必要性

質問タイム:

  • 不明点や不安を質問
  • 薬について心配なことがあれば

6. 会計・薬の受け取り(10分)

会計:

  • 受付で診察費の支払い
  • クレジットカード可(当院の場合)

処方箋:

  • 処方箋を受け取る
  • 有効期限は発行日を含めて4日間

薬局:

  • 院外処方の場合、近くの薬局へ
  • 処方箋を提出
  • お薬手帳を持参
  • 薬剤師からの説明を受ける
  • 薬代を支払う

診察費用の目安

初診(薬なしの場合)

保険3割負担:

  • 診察料: 約2,500〜3,500円

内訳:

  • 初診料: 約850円
  • 精神科専門療法: 約1,000円
  • その他(検査など): 状況により

初診(薬ありの場合)

保険3割負担:

  • 診察料 + 処方箋料: 約3,000〜4,000円
  • 薬代(薬局): 約1,000〜3,000円(処方内容による)

合計: 約4,000〜7,000円程度

再診

保険3割負担:

  • 診察料: 約1,500〜2,500円
  • 薬代: 約1,000〜3,000円

合計: 約2,500〜5,500円程度

自立支援医療制度を利用した場合

自立支援医療制度を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。

条件:

  • 継続的な通院治療が必要
  • 主治医の診断書が必要
  • 市町村での申請手続き

詳しくは受診時にお尋ねください。

よくある質問と不安

Q1: 精神科を受診すると、会社や学校にバレますか?

A: バレません。 医師には守秘義務があり、本人の同意なく情報を外部に漏らすことはありません。保険証の使用で会社に知られることもありません(診療科までは通知されない)。

Q2: 初診で薬を処方されますか?

A: 症状や患者様の希望によります。必ず薬が出るわけではなく、生活指導のみの場合もあります。薬に抵抗がある場合は、その旨を伝えてください。

Q3: どのくらい通院が必要ですか?

A: 症状や治療内容により異なります。初期は1〜2週間に1回、安定してきたら月1回程度が一般的です。

Q4: 家族に内緒で受診できますか?

A: できます。成人の場合、家族への連絡は本人の同意がなければ行いません。ただし、治療には家族の理解があった方が効果的です。

Q5: いきなり入院させられませんか?

A: 入院が必要なケースは稀です。 本人の同意なく強制的に入院させることは、法律で厳しく制限されています。自殺の危険が極めて高い、他害の恐れがあるなど、特別な場合のみです。

Q6: 診断書はすぐにもらえますか?

A: 初診当日に発行可能な場合もありますが、数回の診察後になることもあります。診断書が必要な場合は、受診時に伝えてください。

Q7: 一人で行くのが不安です。家族と一緒に行ってもいいですか?

A: もちろん大丈夫です。待合室で待っていてもらうことも、診察室に一緒に入ることも可能です(本人の希望があれば)。

Q8: 予約した日に行けなくなったら?

A: できるだけ早く電話で連絡してください。キャンセル料はかかりません。次の予約を取り直すことができます。

初診を有意義にするためのヒント

1. 期待値を適切に設定

初診でできること:

  • 症状の評価、診断
  • 治療方針の決定
  • 初期治療の開始

初診でできないこと:

  • すべての問題の解決
  • 即座の完治
  • 人生相談(時間に限りがある)

2. 医師との信頼関係を築く

  • 正直に話す
  • 疑問は遠慮なく質問
  • 「この先生は合わない」と感じたら、セカンドオピニオンも選択肢

3. 治療への積極的参加

  • 処方された薬は指示通り服用
  • 生活指導を実践
  • 次回までの変化を記録
  • 疑問や副作用はすぐに相談

4. 継続的な通院

  • 1回で治ることは稀
  • 定期的な通院が回復の鍵
  • 良くなっても自己判断で中断しない

受診をためらっている方へ

「まだ大丈夫」と我慢していませんか?

  • 早期受診が早期回復につながります
  • 我慢して悪化すると、治療に時間がかかります
  • 「もっと辛い人がいる」と比較する必要はありません

「精神科は特別」という偏見

  • 精神科・心療内科は、心と体の専門医です
  • 風邪で内科に行くのと同じように、心の不調で精神科に行くのは自然なことです
  • 多くの方が受診し、回復しています

「薬漬けにされるのでは」という不安

  • 必要最小限の処方を心がけています
  • 薬を使わない治療法もあります
  • 患者様の意向を尊重します

「弱いと思われるのでは」という心配

  • 精神疾患は脳の病気であり、気の持ちようの問題ではありません
  • 適切な治療を受けることは、賢明な判断です
  • 専門家に頼ることは、強さの証です

まとめ

初めての精神科・心療内科受診は不安なものですが、適切な準備をすることで、スムーズに進めることができます。

ポイント:

  1. 受診のタイミング: 2週間以上症状が続いたら
  2. 準備: 症状メモ、保険証、お薬手帳
  3. 初診の流れ: 受付 → 問診票 → 診察(30〜60分) → 会計
  4. 費用: 初診で4,000〜7,000円程度(3割負担)
  5. 心構え: 正直に話す、質問する、継続的な通院

当院では、初めて受診される方にも安心して来院いただけるよう、丁寧な説明と温かい対応を心がけています。わからないことや不安なことがあれば、予約時の電話でも遠慮なくお尋ねください。

心の不調は誰にでも起こりうることです。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが、回復への第一歩です。お気軽にご相談ください。一緒に、より良い明日に向けて歩んでいきましょう。

坂田亮介

著者

名東メンタルクリニック 院長
精神保健指定医・日本精神神経学会専門医

医学的監修済み (2025年10月11日)

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