はじめに
「精神科や心療内科を受診したいけど、どうすればいいかわからない」「どんなことを聞かれるのか不安」――初めて精神科・心療内科を受診される方の多くが、このような不安を抱えています。本記事では、受診の流れ、準備すること、よくある疑問について、精神科医が詳しく解説します。
精神科と心療内科の違い
精神科
対象: 主に精神疾患
- うつ病、双極性障害
- 統合失調症
- 不安障害、パニック障害
- 強迫性障害
- ADHD、自閉スペクトラム症
- 認知症
- 依存症
アプローチ: 精神症状に焦点を当てた治療
心療内科
対象: 心身症(ストレスが原因の身体症状)
- 過敏性腸症候群
- 心因性の胃潰瘍
- 緊張性頭痛
- 過換気症候群
- 摂食障害
アプローチ: 心と体の両面からアプローチ
実際には
多くのクリニックでは、精神科と心療内科を両方標榜しており、うつ病や不安障害など幅広く診療しています。初診の方は、どちらを選んでも問題ありません。
当院も「精神科・心療内科」として、心の問題全般に対応しています。
受診を考えるタイミング
以下のような症状が2週間以上続いている場合は、受診をお勧めします:
気分の問題
- 憂うつな気分が続く
- 何をしても楽しめない
- イライラが止まらない
- 不安や心配が強い
睡眠の問題
- 寝つけない
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝早く目が覚めてしまう
- 寝ても疲れが取れない
日常生活への影響
- 仕事や学業に集中できない
- 欠勤・欠席が増えている
- 人と会うのが辛い
- 家事ができない
身体症状
- 原因不明の頭痛、胃痛
- 動悸、息苦しさ
- めまい、ふらつき
- 食欲の変化、体重の増減
緊急性が高い場合
以下の症状がある場合は、できるだけ早く受診してください:
- 死にたいと思う(希死念慮)
- 自分を傷つけたい
- 幻聴や妄想がある
- 全く眠れない日が続く
- 食事がまったく摂れない
受診前の準備
1. クリニックの選び方
確認するポイント:
アクセス:
- 自宅や職場から通いやすい
- 駐車場の有無
- 公共交通機関でのアクセス
診療時間:
- 仕事帰りに行ける時間帯
- 土曜診療の有無
- 予約制かどうか
医師の専門性:
- 精神保健指定医
- 専門医の資格
- 得意分野
口コミ・評判:
- インターネットの口コミ
- 知人の紹介
- ただし個人差があることを理解
初診の受付状況:
- 新規患者を受け付けているか
- 予約の待ち時間
2. 予約の取り方
電話予約:
- 診療時間内に電話
- 「初診を希望します」と伝える
- 希望日時を伝える(複数候補があると良い)
伝えること:
- 名前、生年月日
- 連絡先(携帯電話番号)
- 主な症状(簡単に)
- 他院からの紹介状の有無
確認すること:
- 予約日時
- 持ち物
- 初診料の目安
- 所要時間
Web予約:
- 当院ではWebからの予約も可能
- 24時間受付
- 確認メールが届く
3. 持ち物チェックリスト
必須:
- ☑ 健康保険証
- ☑ 診察券(再診の場合)
- ☑ お薬手帳(服用中の薬がある場合)
- ☑ 現金・クレジットカード
あると良いもの:
- ☑ 紹介状(他院からの場合)
- ☑ 血液検査結果など(直近のもの)
- ☑ 症状メモ(後述)
- ☑ 飲んでいる薬・サプリメント
- ☑ 筆記用具(メモを取る用)
- ☑ 身分証明書(自立支援医療申請の場合)
4. 症状メモの作成(重要!)
診察室では緊張して、言いたいことを忘れてしまうことがあります。事前にメモを作っておくと、スムーズに伝えられます。
症状メモのテンプレート:
【いつから】
□ 症状が始まった時期:
□ きっかけ(思い当たること):
【どんな症状】
□ 主な症状(3つまで):
1.
2.
3.
【程度】
□ 日常生活への影響(仕事、家事、人間関係など):
【睡眠】
□ 寝つき: 良い / 普通 / 悪い
□ 途中で起きる: ない / 時々 / よくある
□ 起床時刻:
□ 朝の気分: 良い / 普通 / 悪い
【食欲】
□ 食欲: ある / 普通 / ない
□ 体重の変化: 増えた / 変わらない / 減った( kg)
【生活状況】
□ 仕事・学校:
□ 家族構成:
□ ストレス(あれば):
【既往歴】
□ 過去の病気:
□ 現在飲んでいる薬:
□ アレルギー:
【家族歴】
□ 家族に精神疾患の方がいるか:
【希望】
□ 医師に相談したいこと:
□ 薬について(希望、心配など):
□ 診断書・紹介状の希望:
受診当日の流れ
1. 受付(5分)
到着時間:
- 予約時間の10〜15分前に到着
- 初診の場合は書類記入があるため、少し早めに
受付で行うこと:
- 保険証の提示
- 問診票の記入
- 同意書へのサイン(個人情報取り扱いなど)
2. 問診票の記入(10〜15分)
記入項目:
- 基本情報(名前、生年月日、住所、連絡先)
- 主訴(一番困っている症状)
- 現病歴(いつから、どんな症状)
- 既往歴(過去の病気)
- 家族歴
- 生活状況(仕事、家族、飲酒・喫煙など)
- アレルギー
書き方のコツ:
- わからない項目は空欄でOK
- 正直に書く(恥ずかしいことでも)
- 詳しくは医師に直接話せる
3. 待合室で待機(10〜30分)
リラックスして待つ:
- 雑誌や本を読む
- スマートフォンを見る(マナーモードで)
- 深呼吸してリラックス
- 症状メモを見返す
4. 診察(初診30〜60分)
診察室に入ったら:
- 「こんにちは」と挨拶
- 席に座る(看護師が案内)
- 緊張していることを伝えてもOK
医師が聞くこと:
1. 主訴(一番困っていること)
- 「今日はどうされましたか?」
- 一番困っている症状を伝える
2. 現病歴(症状の詳細)
- いつから症状があるか
- きっかけは何か
- どんな症状か(具体的に)
- 症状の経過(良くなったり悪くなったり)
- 日常生活への影響
3. 既往歴
- 過去にかかった病気
- 過去の精神科受診歴
- 現在の治療中の病気
- 飲んでいる薬
4. 家族歴
- 家族に精神疾患の方がいるか
- 家族の病歴
5. 生活状況
- 仕事・学校の状況
- 家族構成、同居人
- 生活リズム(睡眠、食事)
- ストレス要因
- 飲酒・喫煙
6. 社会歴
- 学歴、職歴
- 結婚歴
- 重要なライフイベント
正直に話すことが大切:
- 恥ずかしいことでも正直に
- 医師には守秘義務があります
- 正確な診断には正直な情報が必要
わからないことは質問:
- 遠慮せずに質問してOK
- 「もう一度説明してください」もOK
- メモを取ってもOK
5. 診断・治療方針の説明(10分)
医師から説明があること:
診断:
- 現時点での診断名
- 病気の説明
- 今後の見通し
治療方針:
- 薬物療法の必要性
- 処方する薬の説明(効果、副作用)
- 精神療法(カウンセリング)の提案
- 生活指導
次回の予定:
- 次回受診日
- 定期的な通院の必要性
質問タイム:
- 不明点や不安を質問
- 薬について心配なことがあれば
6. 会計・薬の受け取り(10分)
会計:
- 受付で診察費の支払い
- クレジットカード可(当院の場合)
処方箋:
- 処方箋を受け取る
- 有効期限は発行日を含めて4日間
薬局:
- 院外処方の場合、近くの薬局へ
- 処方箋を提出
- お薬手帳を持参
- 薬剤師からの説明を受ける
- 薬代を支払う
診察費用の目安
初診(薬なしの場合)
保険3割負担:
- 診察料: 約2,500〜3,500円
内訳:
- 初診料: 約850円
- 精神科専門療法: 約1,000円
- その他(検査など): 状況により
初診(薬ありの場合)
保険3割負担:
- 診察料 + 処方箋料: 約3,000〜4,000円
- 薬代(薬局): 約1,000〜3,000円(処方内容による)
合計: 約4,000〜7,000円程度
再診
保険3割負担:
- 診察料: 約1,500〜2,500円
- 薬代: 約1,000〜3,000円
合計: 約2,500〜5,500円程度
自立支援医療制度を利用した場合
自立支援医療制度を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。
条件:
- 継続的な通院治療が必要
- 主治医の診断書が必要
- 市町村での申請手続き
詳しくは受診時にお尋ねください。
よくある質問と不安
Q1: 精神科を受診すると、会社や学校にバレますか?
A: バレません。 医師には守秘義務があり、本人の同意なく情報を外部に漏らすことはありません。保険証の使用で会社に知られることもありません(診療科までは通知されない)。
Q2: 初診で薬を処方されますか?
A: 症状や患者様の希望によります。必ず薬が出るわけではなく、生活指導のみの場合もあります。薬に抵抗がある場合は、その旨を伝えてください。
Q3: どのくらい通院が必要ですか?
A: 症状や治療内容により異なります。初期は1〜2週間に1回、安定してきたら月1回程度が一般的です。
Q4: 家族に内緒で受診できますか?
A: できます。成人の場合、家族への連絡は本人の同意がなければ行いません。ただし、治療には家族の理解があった方が効果的です。
Q5: いきなり入院させられませんか?
A: 入院が必要なケースは稀です。 本人の同意なく強制的に入院させることは、法律で厳しく制限されています。自殺の危険が極めて高い、他害の恐れがあるなど、特別な場合のみです。
Q6: 診断書はすぐにもらえますか?
A: 初診当日に発行可能な場合もありますが、数回の診察後になることもあります。診断書が必要な場合は、受診時に伝えてください。
Q7: 一人で行くのが不安です。家族と一緒に行ってもいいですか?
A: もちろん大丈夫です。待合室で待っていてもらうことも、診察室に一緒に入ることも可能です(本人の希望があれば)。
Q8: 予約した日に行けなくなったら?
A: できるだけ早く電話で連絡してください。キャンセル料はかかりません。次の予約を取り直すことができます。
初診を有意義にするためのヒント
1. 期待値を適切に設定
初診でできること:
- 症状の評価、診断
- 治療方針の決定
- 初期治療の開始
初診でできないこと:
- すべての問題の解決
- 即座の完治
- 人生相談(時間に限りがある)
2. 医師との信頼関係を築く
- 正直に話す
- 疑問は遠慮なく質問
- 「この先生は合わない」と感じたら、セカンドオピニオンも選択肢
3. 治療への積極的参加
- 処方された薬は指示通り服用
- 生活指導を実践
- 次回までの変化を記録
- 疑問や副作用はすぐに相談
4. 継続的な通院
- 1回で治ることは稀
- 定期的な通院が回復の鍵
- 良くなっても自己判断で中断しない
受診をためらっている方へ
「まだ大丈夫」と我慢していませんか?
- 早期受診が早期回復につながります
- 我慢して悪化すると、治療に時間がかかります
- 「もっと辛い人がいる」と比較する必要はありません
「精神科は特別」という偏見
- 精神科・心療内科は、心と体の専門医です
- 風邪で内科に行くのと同じように、心の不調で精神科に行くのは自然なことです
- 多くの方が受診し、回復しています
「薬漬けにされるのでは」という不安
- 必要最小限の処方を心がけています
- 薬を使わない治療法もあります
- 患者様の意向を尊重します
「弱いと思われるのでは」という心配
- 精神疾患は脳の病気であり、気の持ちようの問題ではありません
- 適切な治療を受けることは、賢明な判断です
- 専門家に頼ることは、強さの証です
まとめ
初めての精神科・心療内科受診は不安なものですが、適切な準備をすることで、スムーズに進めることができます。
ポイント:
- 受診のタイミング: 2週間以上症状が続いたら
- 準備: 症状メモ、保険証、お薬手帳
- 初診の流れ: 受付 → 問診票 → 診察(30〜60分) → 会計
- 費用: 初診で4,000〜7,000円程度(3割負担)
- 心構え: 正直に話す、質問する、継続的な通院
当院では、初めて受診される方にも安心して来院いただけるよう、丁寧な説明と温かい対応を心がけています。わからないことや不安なことがあれば、予約時の電話でも遠慮なくお尋ねください。
心の不調は誰にでも起こりうることです。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが、回復への第一歩です。お気軽にご相談ください。一緒に、より良い明日に向けて歩んでいきましょう。